「あっ…うぐ…ッ」
「ひより?」
「ひっ…」

恐怖で漏れてしまった言葉は運悪くフリッピーの元へ届いてしまったらしく。この声の持ち主が私だということもバレてしまったらしく。こちらへと近付いているであろう足音は次第に大きくなりそれに比例し私の鼓動も大きくなっていくのがわかった。

「そこに、いるのか?」
「いや…来ないで!」
「…」

気付くとフリッピーは目の前にいた。間近に見た彼の瞳は黄色く怪しい光を放っているようであった。心臓がどくん、と跳び跳ねた。呼吸が速くなる。

「来ないで…ッ」
「行ったらどうするって言うんだ?」

カタカタと震える手で拳銃を握った。彼はどこで手にいれたんだという顔をしていたがあの双子が置いていったのだ。フリッピーに殺される前に。ともかくそんな事情は私の頭からは消え去っていたのだが。彼は握っていたナイフを付きだし「撃ってみろよ」とただひとこと言った。その自信に満ちたとも言えるような表情で。彼が何を思ってそう言ったのかは私の知るところではないが多分きっと私には撃てないとわかってのことだろう。

「ほらどうした?」
「だめ、…できない」
「銃を手にしたってことはそれなりの覚悟を決めたってことだよな?」
「あ…え、」
「殺す覚悟があるなら…死ぬ覚悟もあるってことだよな」
「ふり、…」

私が彼の名を言い終わる前に彼の手に握られていたナイフの刃先が閃光を描いた。ソレが喉元を掠めたと同時に私の身体は大きく後ろへ傾いた。自分の意思でやったのか、それとも痙攣かなにかだったのかは私の知るところではないがともかく既に撃鉄を起こしてあった銃の引き金は私の手によって引かれていた。彼の身体もくの字に折れ曲がり膝を着いてからゆっくりと地面に伏した。

「はは…」

それは夕暮れ時の出来事。沈みかけている太陽とよく似た色の水溜まりの真ん中で寄り添うようにして倒れた私たちの1日がそうして終った。